誰もが経験する、根拠のない不安
人間は生き物ですから、常に元気でいられるわけではありません。特に理由もないのに、なんとなくお腹が痛かったり、頭が痛かったりすることは、誰にでもあると思います。そんな時、「もしかして何か大変な病気なのでは?」と、漠然とした不安に襲われた経験はありませんか?私は何度も経験があります。
ここでは、そんな根拠のない恐怖感、「心気症」について書いていこうと思います。
その不安の名前:心気症(心気神経症)
医学的な検査で問題がないと言われたにも関わらず、些細な体調不良を重大な病気のサインだと信じ込んでしまう症状。これは「心気症(心気神経症)」と呼ばれています。
些細な不調を重大な問題と思い込み、その状態が6ヶ月以上続く場合に、この診断が下されます。精神疾患の一つと考えられており、その原因は人それぞれです。
不安な気持ちから、インターネットで自分の不調について調べてしまい、結果的にさらに恐怖心を煽られてしまうことも少なくありません。このような状態は、「サイバー心気症」や「グーグル症」とも呼ばれます。
「病は気から」の真実
生きている限り、誰もが病気になる可能性を持っています。普段から健康に気を付けていても、病気になる時はなってしまうものです。ですから、病気を恐れること自体は、ある意味自然な感情です。
しかし、心気症は、どうしようもない安心感を求めます。「絶対に大丈夫だ」という確信が欲しい。そのために病院に行き、医師から太鼓判を押してもらっても、すぐにまた同じ不安に囚われてしまう。この繰り返しが、心気症の特徴です。
心配しすぎるあまり、心が疲弊し、最初は何もなかったはずなのに、本当に体調不良を引き起こしてしまうこともあります。まさに、「病は気から」という言葉通りです。
サイバー心気症も同様です。一時的な不調の原因を検索した結果、恐ろしい病気の名前ばかりが目に飛び込み、「自分もこの病気に違いない」と勝手に思い込んでしまうのです。
さらに、思い描く未来は、常に最悪のシナリオです。「突然心臓発作を起こして、誰にも気づかれずに死んでしまうのでは?」「寝ている間に脳梗塞になって、そのまま目覚めないのでは?」など、考えうる限り最悪の未来を想像してしまいます。
しかし、実際には、このような心配に終わりはありません。どれだけ不安を募らせても、きりがないのです。
不安を受け入れ、今を生きる
心気症は、実は誰にでも起こりうる、ありふれた症状です。「未知を恐れる」という意味では、誰もが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。ただ、心気症の場合、「最悪の結果を意識しすぎてしまう」という点が特徴的です。
私の場合は、芸能人が病気になったというニュースや、身近な人の発病の報告を聞くと、「自分もそうなるのではないか」と怖くなることがあります。たとえ今は特に大きな不調がなくても、「今朝少し頭が痛かったから、もしかして脳出血しているのかも」と、日常の些細な不安を過剰に心配してしまうのです。
恐怖心を拭いたくて、インターネットで病気について調べ、少しでも自分に当てはまる症状を見つけると、さらに不安になっていました。安心したいはずなのに、自分から不安を探しに行っていたのです。
「死を恐れる」という感情は、「生きたい」という気持ちの裏返しです。しかし、死を意識しすぎるあまり、今生きているという事実を忘れてしまう。これが、心気症の最も恐ろしい点だと私は思います。
もちろん、万が一の事態に備え、健康状態を医師に診てもらうことは大切です。しかし、そこで「大丈夫」と言われたのなら、割り切って、今元気に生きているという現実に目を向けるべきです。
まだ見ぬ最悪の未来に怯え、疲弊するよりも、「ある程度の不安は誰にでもある。それよりも、今を精一杯楽しもう」と、不安を受け入れる。そうすることで、精神的にずっと楽に過ごせるはずです。
そうは言っても、つい病気のことを考えてしまう気持ちはよくわかります。心気症に悩む人は、「考え癖」「調べ癖」がついていることが多いからです。それをすぐにやめるのは、ほぼ不可能です。「考えてはいけない」と思えば思うほど、深く考えてしまうものです。
特効薬はないけれど
心気症で不安になり、病院を訪れる人は少なくありません。しかし、多くの場合、診断結果は「自律神経の乱れ」や「気にしすぎによる体の過敏反応」といったものです。
目に見える数値(体温、血圧、心拍数など)にこだわりすぎるあまり、逆に体調を崩してしまう人もいます。体温や血圧は、一日の中で常に変動するものですし、腹痛や頭痛も、ほとんどは命に関わるものではありません。健康な体でも、その日の気分や天気によって、一時的に不調になることはあります。
それらを頭では理解していても、漠然とした不安に襲われてしまうのが心気症です。特効薬はなく、場合によっては抗不安薬などが処方されることもありますが、完全に治すことは難しいでしょう。大切なのは、「今の自分の状態を正しく知ること」と「不安から逃げずに受け入れること」だと私は考えています。
私も、睡眠時間にこだわりすぎるあまり、逆に眠れなくなった経験があります。「今日は5時間しか眠れなかったから、体調を崩すかもしれない」「夜中に2回も起きてしまったから、良くない」など、ネガティブな方向に考えすぎた結果、不眠と中途覚醒が悪化し、最終的に睡眠導入剤を処方してもらいました。しかし、今はかなり眠れるようになり、元気に過ごせています。
そうなれた一番の理由は、薬ではなく、信頼できる人に相談できたことだと思っています。不安な時、一人で悪い方向に考え込むのが心気症の特徴です。そのまま自分の想像だけで怖くなり、インターネットで情報を得ようとしてしまうのです。しかし、ネガティブな思考になっている時にそんなことをしても、悪い情報ばかりが目に入り、逆効果です。

一人で抱え込まず、家族、友人、医師など、誰でもいいので第三者に不安を聞いてもらい、一緒に考えてもらいましょう。万が一、本当に病気だったとしても、誰かに話すことで早期治療につながります。最悪のことばかりに囚われず、楽観的に考えてみましょう。個人的には、何か趣味を持つこともおすすめです。
コメント